学年:2年生 CASE1「世界をぐるり!物語づくりリレープログラム」
導入の決め手は、私自身がこの絵本をはじめて手に取ったとき、「この後どうなるんだろう?」とオリジナル絵本『リンちゃんとダーリンの大冒険』の世界に引き込まれたこと、そして同時に「クラスの子どもたちならどんな続きのストーリを考えるかな?」と子どもたちと楽しんでみたいと思ったからでした。
また、コンセプトやねらいを読んでみると、この絵本つくりが「楽しそう」「やってみたい」と思える魅力だけではなく、子ども達の様々な「見方」や「考え方」を育むことができることがわかります。「楽しい」に加えて子どもたちの世界や学びを広げていくことが出来る。そうなるとやらない選択はありませんでした。
まずは授業でプログラムキットからアイスブレイクとしてぬりえを行い、次の授業で『リンちゃんとダーリンの大冒険』を子どもたちに紹介することにしました。
「この間、ぬりえをしたでしょ?それはね。ある物語の1コマなんだよ。お話を想像してたくさん書いてくれた人もいたね。どんなお話か読んで見たい?」と伝えると子どもたちは「うん!」と声を揃えて集まって来ました。
絵本を開くと、子どもたちは身を乗り出し、「うわーかわいい!」「すごい!」「あっ!宇宙船に乗っていたあの子じゃん」…といった具合に30人の子どもたちが口々につぶやきます。絵もかわいくて、説明尽くされていないシンプルな構成だから子どもたちのつぶやきも多いように感じます。
リンちゃんが原っぱに寝そべっている場面。「うわー」と子どもたち。太陽やお家、花…絵にあるものを見つけては子どもたちは呟く。みんなで一緒に原っぱで寝転んでいる気分。子どもたちの声も弾んでいる。「鳥も魚も…みんな繋がっている」の1文に「えー、僕は虫が苦手だからそれはやだな」とYくん、みんなも笑っている。こうやって様々な事を呟いたりそれを聞いたりして子ども達は物語の世界に入り込んで行きました。
リンちゃんがテレビを見た場面、ここで子どもたちのトーンが変わりました。「この子たちはなんで働いているの」のリンちゃんのセリフに「お金がないからだよ」と子どもたち。「知っている」「見たことある」そんな言葉も聞こえてきます。子どもたちは子どもたちなりに知っている事を考え、一生懸命言葉にしています。もうすでに、ここに学びのタネが生まれている事を感じました。今回は、つぶやきをみんなで共有する事で次へ進みましたが、実際に調べる活動などに学びを広げていけると思いました。また次の機会には是非活用したいです。
その後も、子どもたちのつぶやきを大切にしながら読み聞かせを続けていきました。おじいちゃんの魔法のコイン、旅の決意、そして出発。ここで物語は終わり。すると子供達は「続きは?」と求めてきます。続きをせがむ子ども達に「どう思う?今日はね。みんなにこの続きを書いてもらいたいんだ。どうだろう?」と提案をしました。「えー!!」と子供たち。そして次の瞬間には「やって見たい!」と元気な返事が返ってきました。
席に戻ったところであらすじの確認。1枚1枚絵を確認して行きました。
「地球はなんで泣いているの?」
・空気が汚れて
・海のゴミ
・自然が空っぽ
・石油がない
・絶滅危惧種
たくさんの反応が返ってきて、2年生でもいろんな言葉を知っているんだなと思いました。同時に「なにそれ?どういうこと?」そんな子どもたちの声も聞こえてきました。先にも書きましたが、ここで、「じゃあ、調べてみよう」と展開していくことができそうです。
「リンちゃんとダーリンは、このあとどうした?」
・世界1周
・宇宙
・他の星
・地球を救うんだから地球を回るはずだよ
・海に潜って
T:「海ではどんなことあるの?」→ びっくりざめが出てきてね…
・森の中
・幻のオオカミがいるんだ
・僕は洞窟
・コウモリの女王だ!!
・インドに行って助けたんじゃない?
実にたくさんのお話の種が生まれていきます。子ども達のイメージは想像以上で、ひとつのアイデアにいろんなアイデアが繋がっていったり、友達のアイデアに触発されてまた違った視点でアイデアが広がって行く。しりとりをするように物語が繋がって行くように子ども達の発言はどんどん繋がっていき、あっという間に黒板いっぱいにアイデアでいっぱいになりました。
日々の授業でもそうですが、いざ文章を書こうと思ってもなかなかペンが動かないことが多くあります。大人でもそうかもしれません。それだけ「書く」ことはハードルの高いことなのだと思います。でも、こうしてみんなでおしゃべりをして自由にアイデアを出し合うことで、物語の膨らまし方を学んだり、書きはじめのきっかけをつかんだり、さらには、「どんなアイデアもいいんだ」そんな安心感を持てるようになります。この絵本作りを経験してから子ども達は「書くこと」への抵抗が少なくなったように思います。
子ども達は5種類のワークシートの中から好きなものを選んで書きはじめました。 ものすごい勢いで書き始める子、黒板をぼんやり見つめながら構想を練る子、姿はそれぞれですが、みんな良い表情で取り組んでいます。一方で、「僕、絵が苦手なんだよな」とつぶやく子もいました。そんな子には、「いいんだよ。うまい下手じゃない。自分の得意なことで力をはっきすれば」「例えばね、この絵本も文章と、絵、別々の人が書いたんだよ。おんなじように、きみの文章を本物のイラストレーターが絵にしてくれたりしてね。そうやって考えるとワクワクするね」と伝えると体を弾ませながら「うえ~すげー」と嬉しそうに書き始めました。このようにして声をかけられることはとても大きなことで、教師の主観だけではなく、この絵本自体も同じように作られてきた事実は子ども達に大きな説得力を持って伝わります。子ども達の絵本つくりのプロセスと、『リンちゃんとダーリンの大冒険」が作られていくプロセスが同じように進んでいることが「本物に触れる」事であり、追体験になっているのだと思いました。
しばらくすると、教室には鉛筆が走る音しか聞こえなくなりました。どの子も黙々と書いています。絵から始める子、ストーリーから書く子、時折、宙を眺めながら考えたり、自分の書いた文章を読み直して微笑んだりと子ども達の様々な表情が印象的でした。絵本の読み聞かせからあっという間に2時間がすぎていきました。
出来上がった作品は、それぞれの机の上に展示をして、美術館のように展示して読み合いました。読んだ作品には感想を付箋に書いてファンレターとして送り合いました。自分の書いたものが友達に読んでもらえる喜びは何事にも変えがたい喜びと達成感があるようでした。
学習のステップもわかりやすく、そして何より子ども達の気持ちや思考に寄り添ったものでした。
プログラムのアイスブレイクに設定されていた「ぬりえ」。はじめは「必要無いのではないか?」と考えていました。はやく絵本に入った方が時間も省略出来ますし、何より「授業としてどうか?」そんな小さな心配もありました。
ですが、子どもたちは、嬉しそうに1枚の絵を手に取り、思い思いに色を塗っていました。さらには、「この女の子はね、宇宙を旅していてね・・・」と子ども達はひとりでに自分のストーリーを語り出していました。
こうして子ども達は1枚のぬりえを楽しむだけではなく、その物語の世界に自然と主体的に入り込んでいくのでした。さらには、子ども達が思い思いに塗ったものは、一人一人違う作品のようにどれもすばらしいものでした。今振り返るとこのことが「みんな自分らしい表現をしていいのだ」という安心を作る作用もあったのだとわかります。他にも、子ども達が絵本を作るワークシートを選ぶことが出来るなど、ひとつひとつの学びのステップやプログラムキットの工夫は素晴らしく、それに触れることで教師にとっても発見や学びの多い体験となりました。
絵本つくりの取り組みを終えたあと、子ども達の中には何より「表現の楽しさ」が残ったようでした。このプログラムを通して、その後の授業や生活の中でも自己表現を楽しむ様子がたくさん見られるようになりました。実際、2作品、3作品目とお家で書いてくる子、自分のオリジナルの絵本や物語を作る子が多く、教室に「みんなが作った絵本コーナー」が出来るほどでした。
また、教師目線で振り返ってみると、子ども達の「書きたい」「楽しい」というポジティブな感情や達成感が学習と結びつくことで子供達の学習への意欲だけではなく知識や思考面も確実に伸ばしていることがわかりました。教師が何も言わなくても誤字脱字に気をつけたり、辞書を使って漢字を調べたりする姿が見られました。さらには、アイデアの出し方、物事の見方や考え方、など、絵本つくりのプロセスを通して様々な力を身につけてられているのだと感じました。
これらのことは、私自身の教え方、授業感を振り返り学ぶ良いモデルにもなってくれたのだと思います。この絵本つくりは楽しかったイベントではなく、これからも続く学びのきっかけなのだと思います。